「剣道における構えは城である」と喩えられるとおり、正しい構えができていなければ攻撃も防御もできません。
剣道でもっとも基本となるのが中段の構えですが、それ以外にも上段や下段などいくつもの構えがあります。また、中段の構えも一つだけではなく、自分の体格や得意技、相手の体格によっても変化させなければなりません。
本記事では主に五行の構え(中段、上段、下段、八相、脇構え)について解説し、さらに基本となる中段の構えについて詳しく解説します。
正しい構えは立ち姿が美しく、昇段審査でも有利に働くでしょう。ぜひ、記事をご覧になり、構えを見直すきっかけにしてみてください。
なお、昇段審査については、下記の記事を参考にしてください。
この記事を書いた人
・剣道歴39年
・剣道 錬士七段
一般企業の会社員をしながら、地元中学校の剣道部外部指導員・少年団の指導者として日々活動中。自身の稽古にも継続して取り組んでいる。
剣道の疑問を小中学生や初心者の人にもわかりやすく伝えようとメルマガ、note、ブログにて発信。
2021年に著書「28回も不合格でしたが、なにか?」を執筆し、Amazonにて発売中。
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剣道における構えとは心と身体が一体になること
剣道における構えは単純に竹刀(刀)の持ち方を指すだけではありません。構えには次の2種類があります。
- 身構え
- 気構え(心構え)
どちらも構えの重要な要素です。それぞれについて、詳しく解説しましょう。
身構え
一般的に剣道の構えといえば、「身構え」を指すことが多いでしょう。身構えとは、上半身と頭、足の位置や向き、刀の握り方を指します。また、呼吸を含める場合もあります。
具体的には、常に動き出せる体勢のことです。つまり、相手の動作や状況変化に体や足が素速く対応できなければなりません。相手の動きに素早く対応するには、特に足の構えが重要です。ただし、素早く動ける身構えは誰でも同じというわけではないので注意してください。
基本的な形は決まっていますが、自身の体格や筋肉量などにより異なるため、身構えも人それぞれによって異なります。宮本武蔵が記した「五輪書」には、姿勢について「よく考えて工夫すべし」と記載されているとおり、一つ一つの形や動きを考えて工夫しなければなりません。
気構え(心構え)
気構え・心構えは心の中での準備、心の用意のことを指します。身構えと同様に、常に変化し続ける状況に対応できるように心を整えておかなければなりません。
剣道では驚(きょう)・懼(く)・疑(ぎ)・惑(わく)の4つを心中に起こしてはならない「四戒(しかい)」の教えがあります。驚とは「驚き」、懼とは「恐れ」、疑とは「疑い」、惑とは、「惑い」です。四戒を無くし、相手に対峙することが重要です。したがって、日頃の稽古では、四戒を起こさないような気構えを意識して取り組んでください。
また、打突後の残心も重要です。残心も一つの気構えであり、打った後も気を抜かずに次の攻撃に備える必要があります。
剣道における五行の構え
剣道の構えには「五行の構え」があります。これは日本剣道形にも出てくるものですが、中には竹刀剣道ではほとんど使用されない構えもあります。しかし、基本的な構えなので覚えておいてください。
五行の構えは次の5種類です。
- 中段の構え
- 上段の構え
- 下段の構え
- 八相の構え
- 脇構え
それぞれ詳しく解説します。
中段の構え
剣道のもっとも基本となる構えが中段の構えです。攻撃と防御のバランスが良い構えであり、現代剣道ではほとんどの人が中段の構えをとっています。
中段の構えの具体的な方法は下記のとおりです。
- 足:自然体に立った状態から右足を少し前に出す
- 剣線:高さは喉元であり、延長が相手の左目または顔の中心付近につける
- 左手:臍前から握り拳1つから1つ半くらい前の位置
- 脇:卵を挟む程度に軽く締める
- 握り:小鳥を握るように強すぎず弱すぎないように握る
中段の構えは自身のスタイルや相手の体格などによって変えることがありますが、詳細は後述します。
上段の構え
現代剣道において中段の構えの次に多いのが、刀を頭上に振りかぶった状態で構える「上段の構え」です。中段の構えが防御と攻撃のバランスが良い構えであるのに対し、上段の構えは攻撃に特化した構えとなります。上段の構えは「火の構え」とも呼ばれるように、自らの打突部位である小手や突き、胴をさらけ出して堂々として構えなければなりません。
上段の構えには、左上段、右上段、片手上段、右手前の上段などがありますが、現代剣道で取り入れられている上段の構えは、ほとんどが左上段の構えとなります。
上段の構えの具体的な特徴は下記のとおりです。
- 左手:額から拳1個分ほど空けたところを目安にする
- 足:左上段は左足を前に、右上段は右足を前に出す
- 踏み込み:左上段は基本的に左足で踏み込み、右上段は右足で踏み込む
- 打突:片手技を得意とする
上段の構えのもっとも大きなメリットは振りかぶりが不要なため、打突が速くなる点です。二刀で構える場合も、片手での打突となるために多くの人が上段に構えます。
ただし、公式試合で上段の構えが許されるのは高校生以上(二刀は大学生以上)です。
下段の構え
剣道における下段の構えは「守りの構え」と言われ、日本剣道形の3本目と6本目に出てきます。下段の構えの特徴は、相手の変化に応じて攻撃できる点ですが、実践的ではなく現代剣道においてはほとんど使われることはありません。
下段における足の構えは中段の構えと同じで、剣先を相手の膝くらいの高さにつけます。相手の足元を攻めるイメージです。
八相の構え
剣道における八相の構えは左上段が変化した構えであり、日本剣道形の4本目に出てきます。見た目は野球での右打者のバッティングフォームのイメージに近いでしょう。八双の構えとも書き「陰の構え」「木の構え」とも呼ばれ、陽の構えである脇構えの対極の構えです。
八相の構えは左上段の構えと同様に、左足を前にして刀を立てます。メリットとして、上段の構えよりも疲労が少ないことが挙げられますが、現代剣道の実戦ではほとんど使用されることはありません。
脇構え
脇構えは右足を引き刀を右脇に取った構えです。右足を引くことで半身になり、剣先を後ろに下げることで刀身の長さが相手からわからなくなります。半身になることで正中線を正面から外すメリットがあり、急所を隠せます。
八相の構えとは逆に「陽の構え」「金の構え」と呼ばれ、日本剣道形では4本目の仕太刀側で使用します。現代剣道においては、実戦で使用することはありませんが、時代劇では稀に見る構えです。
剣道の基本は中段の構え|ポイントと5種類の構え方
剣道において中段の構えはもっとも基本の構えであり、剣道を習い始めたときには竹刀の振り方の前に教わるものです。しかし、基本でありながら奥が深く、日々の稽古では多くの点に留意しなければなりません。そこで、この章では中段の構えをする上での注意点やポイントを解説し、さらに5種類の中段の構えについて詳しく解説します。
剣道の基本である中段の構えのポイント
中段の構えは攻撃にも防御にも対応できる点です。したがって、防御から攻撃に転じるような応じ技も得意な構えともいえます。ただし、有効な攻撃を行うには、いくつかのポイントに注意しなければいけません。
剣道には、「不離五向」という言葉があります。目・剣先・臍・足・心を常に相手から離さずに方に向け続ける考えです。不離五向かは身構えと気構えと一致しますが、常に意識していなければ相手の方向から外れてしまいます。上記の5つを常に相手に向けていれば、簡単に打たれることがありません。
また、相手と自分の身長差が大きな場合には、剣先の高さを調整することをおすすめします。相手の身長が高い場合は剣先を高目に、相手の身長が低い場合には剣先を低目にした方が良いでしょう。
そのうえで、剣先の位置や方向を工夫することで、さらに実戦で有利になり得ます。
剣道における中段の構えは1つではない
じつは、剣道における中段の構えは1つではありません。相手の体格や自分の攻め方、得意技によって構えを変えることも有効です。中段の構えは「正眼の構え」とも言われますが、漢字の異なる「せいがん」は次の5種類があります。
- 正眼の構え:剣先を相手の喉元に定める
- 青眼の構え:剣先を相手の左目に定める
- 晴眼の構え:剣先を相手の眉間、眼と眼の間に定める
- 星眼の構え:剣先を相手の顔面の中心に定める
- 臍眼の構え:剣先を相手の臍の辺りに定める
上記の5種類は五正眼の構えと呼ばれ、状況によって変化させることも必要です。特に多くの八段の先生は剣先を相手の左目に定める青眼の構えをとられることが多く、攻め方のバリエーションにもつながります。また、相手側からは小手が打ちづらく、自身からは小手が打ちやすくなるため、攻撃にも防御にも最適です。
剣道は身構えと気構えを整えることが重要(まとめ)
本記事では剣道の構えについて詳しく解説しました。剣道には、五行の構えといわれる下記の5つの構えがあります。
- 中段の構え
- 上段の構え
- 下段の構え
- 八相の構え
- 脇構え
上記の内、現代剣道で使用されているのは中段の構えと上段の構えがほとんどです。高校生以上はどの構えをしても問題ありませんが、身構えと気構えを整えることを意識しましょう。どのような構え方をするにしても、形だけではなく心が重要です。特に「不離五向」を意識して、日頃の稽古に取り組んでみてください。気構えの重要さを理解できるでしょう。