剣道の理念をどこよりもわかりやすく解説|昇段審査の筆記試験対策も

剣道はスポーツと武道の両方の特性を持っています。元々は武士の生業から発展した武道ですが、戦後は武道が認めらない時期があり学校教育におけるスポーツとして復活しました。

一方で武道としての特性は重要視され、単なるスポーツではなく自己研鑽の道として取り組むものとされています。剣道を武道として考える際に重要となるのが「剣道の理念」です。

本記事では「剣道の理念」が制定された背景や内容についてわかりやすく解説します。

昇段審査の筆記試験のために覚えるだけではなく、自身の剣道修行にも活用してください。

この記事を書いた人

野川正人

・剣道歴39年
・剣道 錬士七段
一般企業の会社員をしながら、地元中学校の剣道部外部指導員・少年団の指導者として日々活動中。自身の稽古にも継続して取り組んでいる。
剣道の疑問を小中学生や初心者の人にもわかりやすく伝えようとメルマガ、note、ブログにて発信。
2021年に著書「28回も不合格でしたが、なにか?」を執筆し、Amazonにて発売中。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0BSBB8SJ2

剣道の理念

武士の生業としての剣術は、人を殺傷することが目的でした。しかし、時代の移り変わりとともに人の心を大切にする活人剣が目的の修業としての剣道が確立します。さらに時間が経ち、時代と共に試合偏重の傾向が強くなってきました。いわゆる「当てっこ剣道」というもので、斬ることよりも打突部位に当てることを重視した競技性(試合)が重視される傾向です。

「当てっこ剣道」は武道としての性質を損なう可能性があると考えた全日本剣道連盟は、昭和50年3月20日に下記のような「剣道の理念」を制定します。

剣道は剣の理法の修練による人間形成の道である

全日本剣道連盟『剣道の理念』


『剣道の理念』は故松本敏夫範士を委員長とする11名の委員が完成させた、現在の剣道におけるもっとも重要な理念と言ってもよいでしょう。そして、剣道の理念には下記3つの要素が含まれています。

  • 剣の理法
  • 人間形成

つまり、上記の3つを日頃から研究し、修行鍛錬していくことが剣道修行の大きな目的です。それぞれ詳しく解説しましょう。

剣の理法とは

2024年3月、全日本剣道連盟は『剣の理法』について下記のような解説文を公開しました。

《本文》
「『剣の理法』とは、気剣体一致した打突を生み出すために心法・刀法・身法を一体としてはたらかせる理にかなった方法のことである。」
《補足》
「気剣体一致した打突は、心法(心のはたらき)と刀法(刃筋・物打・鎬などが機能する刀・木刀・竹刀の適正な操作)と身法(体勢・体さばきなどの身体の運用)とが一体となっているものである」

全日本剣道連盟『剣の理法説明版』

剣の理法には下記の3つを一致させた打突とのこと。

  • 心法(しんぽう):心の働き
  • 刀法(とうほう):刃筋・物打・鎬などが機能する刀・木刀・竹刀の適正な操作
  • 身法(しんぽう):体勢・体さばきなどの身体の運用

心法・刀法・身法について、詳しく解説します。

心法とは

剣道の有効打突の条件には「充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする」と記されています。その中でも、もっとも重視される条件が「充実した気勢」です。

剣道は他のスポーツと異なり、マインド面が技に大きな影響を与えます。剣道は一人でするものではなく、必ず相手が必要です。相手との関係性の中で、「驚懼疑惑(きょうくぎわく)」の四戒を生じさせないようにしなければなりません。驚懼疑惑は隙となり、相手に有利な状況を作り出します。

したがって、日頃の稽古の中で、平常心を保てるように修行に励むことが重要となります。

また、剣道の稽古に取り組むうえでは、相手への感謝も忘れてはなりません。剣道の修行の中で、相手に立ち向かうことと同じように相手への感謝の気持ちも重要です。

刀法とは

剣道では竹刀や木刀を使用して稽古に取り組みます。竹刀や木刀は日本刀の代わりに考案されたものであり、日本刀であるという認識の下で扱わなければなりません。また、剣道における刀は相手に向ける剣であると同時に自分にも向けられた剣であるとの認識が必要となります。

剣道における刀法での重要な点は次の2つです。

  • 日本刀の形状に則った刀法を学ぶ
  • 刀を粗末にすることは自分の命を粗末に扱うことである

日本刀は反りと鎬(しのぎ)があるのが大きな特徴です。剣道ではとくに鎬の使い方を学ぶことで、技の幅が大きく広がります。

竹刀の取り扱い方については、自分の命と同じように大切に扱わなければなりません。竹刀をまたいだり、杖のように床に付けたりする行為は避け、丁寧に扱います。竹刀を大切に扱うことで、剣道具や道場の扱い方も自然と学べるでしょう。

刀法は刀を振るだけが修行ではありません。竹刀について学び、正しく扱うことで竹刀と心身の一体化を図ることが重要です。

身法とは

剣道における身法とは体勢・体さばきなどの身体の運用のことですが、所作や礼法も含まれています。

剣道は礼に始まり礼に終わるといわれるように、礼法が大事です。心法でも触れましたが、相手を敬う心も重視しなければなりません。また、細かな所作にも決まりがあるため、日本古来の武道としての作法を学ぶ貴重な機会です。

体勢や体さばきの基本は自然体にあります。剣道の構えは一見不自然な形に見えるかもしれませんが、基本的には自然体です。自然体でありながら、勢いのある構えでなければなりません。

姿勢とは、文字どおり「勢いのある姿」を現します。姿は外から見えるものであり、勢いは内に秘めたものです。内と外を一致させ、勢いがあり、自由自在に動ける自然体であることが理想とされています。剣道では、心と刀と共に体の鍛錬をしなければなりません。

人間形成とは

人間形成には個人形成や社会(集団)形成などの意味が含まれます。つまり、周囲の人から尊敬され、頼られる人間になることが大きな目標となるでしょう。

素直な気持ちで師の教えに従い、剣道修行に真摯に向き合うことが人間形成につながります。そのためには、心身ともに健全な生活を送ることが大切です。

また、「一芸は万芸に通ず」と世阿弥が言ったように、剣道の修行はほかのことにも役立ちます。たとえば、学業や仕事の道筋は剣道修行の道筋によく似ており、上達するにはどうすべきかが自ずと理解できるでしょう。

道とは

『剣道の理念』において、剣道修行は人間形成の道とされています。道とは、道路や経路、道程などの意味があり、長く続くものです。

また、「道」の漢字は「首」と「辶(しんにょう・之(シ)繞(ニョウ))」から成り立ちます。「辶」は「道を行く」の意味を表す部首となるので、「道」は頭を目的方向に向けて進むという意味です。

したがって、剣の修行には終わりがなく、ずっと続けなければなりません。剣道の修行を続けることが人間形成につながりますが、剣道だけでなく日頃の生活も含めた一生が修行の場であるという自覚が必要です。

剣道修練の心構え

全日本剣道連盟は、剣道の理念と共に『剣道修練の心構え』を以下のように制定しています。

剣道を正しく真剣に学び、心身を錬磨して旺盛なる気力を養い、剣道の特性を通じて礼節をとうとび、信義を重んじ誠を尽くして、常に自己の修養に努め、以って国家社会を愛して、広く人類の平和繁栄に、寄与せんとするものである

全日本剣道連盟『剣道修練の心構え』

『剣道修練の心構え』も『剣道の理念』と同様に、全日本剣道連盟がもっとも基本とする考えです。どちらも昇段審査の筆記試験によく出題されるため、深く理解しておくことをおすすめします。

『剣道修練の心構え』を簡潔にまとめると、剣道は勝ち負けが重要ではなく、人として成長して平和に寄与するための修行であるということです。決して「当てっこ剣道」にならないように、日々の稽古に取り組みましょう。

当てっこではなく人間形成のための剣道(まとめ)

『剣道の理念』は剣の理法の修練による人間形成の道と記されているように、人間形成を目指して日々の稽古に取り組まなければなりません。そのためには技の修得だけではなく、礼法や所作、竹刀や道具の知識も学ぶ必要があります。

また、剣道は相手があってこそ成立するため、相手を敬わなければなりません。剣道には「打って反省、打たれて感謝」という言葉があるように、謙虚な姿勢で向き合うべきです。

謙虚な姿勢で取り組むことは、剣道以外にも役立ちます。上達の道筋は剣道だけでなく、あらゆることの上達の道筋と似ているため、剣道の理念に則った修行は学業や仕事にも生かせるでしょう。

そのためには勝利至上主義に陥らず、真っ直ぐな剣道を身につける稽古が重要です。『剣道の理念』は実現不可能な絵にかいた餅のように思えるかもしれません。少しでも精神面が成長できるように、日々の稽古に取り組みましょう。

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