2012(平成24)年度から、全国の中学校で武道の授業が必修化となりました。
子どもを持つ親にとって、「武道とは何か?」「中学校での武道必修化とは?」など疑問に思うことがあるでしょう。
この記事では、武道必修化とはどういうものなのかを武道経験者である筆者が解説します。
中学校での武道必修化の理由やメリットについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
この記事を書いた人
少林寺拳法弐段の有段者。
武道の疑問を解決する記事を書くので、ぜひ参考にしてください。
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武道とは何か?その特徴は?
武道の経験がない人は、武道とスポーツの違いや、武道がどういうものであるかが分からないかもしれません。
武道は武士道という精神修養をともなった伝統的な格闘術や護身術です。
スポーツとは大きく異なるので、以下で詳細に解説します。
なお、心の鍛錬と聞くとハードルが高いと思われるかもしれません。
しかし、武道の修行は人間教育に必要なエッセンスを含んでいるため、できれば小さいうちから始めるのがよいでしょう。
人づくりが目的である少林寺拳法についての以下の関連コラムもご覧ください。
『【少林寺拳法の発祥】誰が何のために立ち上げたのか?あゆみと展望も徹底解説!』
武道とスポーツの違い
武道とスポーツの大きな違いは、「人格を磨く人間性の確立」があるかどうかです。
スポーツは負けたら終わりで、相手のことよりもまず勝つことが最大の目的になります。
そのため、つらい練習やライバルとの争いが常につきまとい、ストレスがかかるのです。
一方、武道では、勝ち負けよりも、まずは礼儀作法や相手への配慮を身につけることが必要になります。
最終的には空手道や柔道、剣道などでは勝ち負けも大きな目的になりますが、修行のプロセスが大きく異なるのです。
もちろん、武道は相手を倒すことだけを目的とした格闘技とは全く違います。
武道の本質は精神修養
では、武道の本質とはどういうものなのでしょうか?
武道では、技を上達、会得するために、相手と自分を知ることが必要になります。
「相手はどのような攻撃をするか?」「自分はどう動くべきか、自分はそれに対応できているか?」などを冷静に把握することが必要です。
そのため、自分の考えを押し通すだけでなく、相手の気持ちを汲み取って行動することが重要になります。
このように、武道では、礼儀作法や相手への配慮を重んじることで精神修養を行うのです。
これが、人としての心の成長を促します。
武道を習う上での注意点
相手への配慮が礼儀作法につながり、お互いを尊重し合うことで人格形成に役立ち、社会で人とうまく共存できるのです。
そのため、武道では、武道を習うための厳しい規則があります。
これは、人として当然、あるべき理想の姿を言葉にしたものですが、人によっては規則が厳しいと思うかもしれせん。
ただ、武道で示す規則をきちんと理解して守ることができれば、人格者として周囲や世界で認められます。
武道を習うのであれば、規則の意味を十分に理解することが必須で最重要なのです。
中学校体育での武道必修化について
中学校の体育で武道必修化が行われた背景には、「国際社会での共存」「生きる力を身につける」などが挙げられます。
日本や日本人が国際社会になじみ共存するためには、「伝統を守りつつ相手を尊重すること」が必要です。
また、「相手の気持ちを考えること」は生きる力を身につける上で不可欠となります。
そのため、相手を尊重し、多様性を認め合うことを学ぶことができる武道は精神修養には最適といえるでしょう。
できるだけ小さい頃から行なうことが重要であるため、中学校での武道必修化が始まったのです。
武道必修化の経緯
武道必修化は、2006(平成18)年に国の教育の大本である「教育基本法」が約60年ぶりに改正されたことが発端です。
「伝統文化の尊重・他国への尊重・社会平和に寄与する態度を養うこと」などの教育目標が新たに規定されました。
これを踏まえて「学校教育法」も改正され、中学校学習指導要綱に「武道・ダンスの必修化」が明記されたのです。
また、「体力を養い、心身の調和的発達を図ること」も明記されたことで、武道の重要性が示されました。
武道必修化の概要
中学校での武道必修化では、2012(平成24)年度から第1・第2学年の保健体育での実施が義務付けられました。
第3学年では選択制のままです。
文部科学省の「体育学習における武道」によれば、第1・第2学年では、以下の狙いで指導を行います。
- 基本動作と基本となる技を確実に身に付ける
- 相手の動きの変化に対応した攻防ができるようにする
- 技能の上達に応じて、基本となる技を用いた自由練習やごく簡単な試合で攻防を展開する
- 武道の学習に積極的に取り組み、伝統的な行動の仕方を守ることなどに意欲をもたせる
- 健康や安全に気を配るとともに、礼に代表される伝統的な考え方などを理解させる
なお、文部科学省とスポーツ庁が、安全でスムーズに武道の授業を進めるために以下のような取り組みを実施しています。
- 学校体育の充実(文部科学省)
- 武道・ダンス必修化(スポーツ庁):
- 武道指導の充実や資質向上支援事業(スポーツ庁)
スポーツ一辺倒の課題
これまで、中学校での体育ではスポーツを主とした教育がなされてきました。
また、部活動で柔道や剣道を習うことはあっても、勝ち負けや技術面ばかりが先に来ることがあったかと思います。
競技性が高く、勝ち負けが優先されてしまうことで、人との関わりよりも個人主義が重要になっていました。
これでは人の痛みを理解することは難しく、人格面の成長はあまり望めない状況でした。
「怪我をすれば努力が無駄になる」、「とにかく勝てばいい」という状況下では、ストレスが強く、精神面で病む子どももいるでしょう。
武道必修化における問題点
せっかく、武道が必修化になったにもかかわらず、指導者の教育や技術のサポートが不十分であるのが現状です。
また、武道教育を実施するための道場の整備も完全ではありません。
そのため、選択させる武道に偏りが生じていることも事実です。
柔道であれば畳や柔道着が、剣道であれば竹刀と防具の用意が必須であるため、これらの購入も必要となります。
柔道では指導者と生徒の安全管理への理解度が乏しく、毎年のように痛ましい事故が発生していることは大問題です。
武道のメリットを生かした教育が大切
日本武道館が中心となって構成された日本武道協議会で制定された武道の定義をまとめると、以下のようになります。
- 武道は、武士道の伝統に由来する日本で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化である。
- 心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、人間形成の道である。
- 柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道の総称を言う。
つまり、世界に誇れる日本伝統文化である武道を通じ、心技体を鍛え、世界に通用する人間を育てることが教育に不可欠です。
勝ち負けでなくお互いを尊重し、共に発展できる世界を作るためには若者の人格形成が大切になります。
小林寺拳法に拳士として、このたびの武道必修化が将来の日本の礎になることを祈ります。
参考:武道の定義(日本武道館公式ホームページ)
武道必修化のメリット
いじめ問題は、相手の気持ちを理解できないこと、自己中心的であることが大きな原因です。
スポーツの世界では勝ち負けを優先するあまり、不正やいじめなど様々な問題が起こります。
武道を必修化することで、武道の精神を理解できれば、他人を尊重し、多様性を認める一助になるでしょう。
また、心技体を鍛えることができるため、子どもの自信や自立につながります。
つまり、正しく教育できれば、武道必修化にはメリットしかないでしょう。
武道必修化のデメリット
先ほどお伝えしたとおり、教育現場での指導者や設備の不足により、偏った武道を選択せざるを得ない状況があります。
また、精神的に幼い子どもに武道の精神をしっかり理解させないと、逆効果になりかねません。
授業で習った柔道や空手の技で喧嘩をしたり、いじめをしたりという問題が生じています。
教えるのであれば、「技よりも精神から教える」ことが必要です。
そのために指導者の教育が不可欠であり、この課題解決が求められています。
柔道に見られるような事故を防止することや安全管理の徹底も必要でしょう。
まとめ
現在、武道として認められているものは、「柔道」「剣道」「弓道」「相撲」「空手道」「合気道」「少林寺拳法」「なぎなた」「銃剣道」の9つです。
このうち、中学校の武道必修化で選択されているものは、メジャーで指導者が多いものに限られます。
「柔道」「剣道」「空手道」「少林寺拳法」などが主になっているようです。
基本的な武道の精神は同じであるため、どの武道でも習うことはとても良いことです。
なお、出来るだけ早い時期に始める方が習慣になりやすいため、中学まで待たない方が望ましいでしょう。
筆者も、小学3年生から始めた少林寺拳法のおかげで真っ当な人生を送れています。
子どもの健やかな成長には、小学生から武道を習うことがおすすめです。
武道・道場ナビでは、近くの道場を探すことができるので、ぜひ探してみてくださいね。
なお、関連コラム『少林寺拳法とは?あなたの疑問に有段者の元拳士が分かりやすく解説します!』もご覧ください。