空手と一口に言っても、その中身は特性や流派によって細かく分類されています。そのなかでも、大きな分類として伝統派空手なのか、フルコンタクト空手なのかという違いは、試合ルールや成り立ち、稽古内容など大きく違っています。
この違いを知らずに入門する道場を選んでしまうと、「思っていたのと違う」ということに繋がりますので、事前に知っておくことが重要です。
本記事は筆者が長年に渡って修行した伝統派空手を、フルコンタクト空手と比較しながら紹介することで、両者の違いを理解できる記事となっていますので、道場選びの参考にしてみてください。
この記事を書いた人
・空手道20年
・柔術10年
幼少期より空手に励み、中学生からは柔術も始める。その他、棒術・居合も経験あり。
現在はWebライターとして活動している。
伝統派空手とは?伝統技術に基づいた稽古が行われる
単に「空手」と表現する場合、伝統派空手のことを指すのが一般的です。東京オリンピックの種目として採用されたのも、伝統派空手のルールに基づくものでした。
伝統派空手とはいったいどのような空手を指すのでしょうか。本記事では、伝統派空手の対比にあたるフルコンタクト空手と比べながら、分かりやすく解説致します。
伝統派空手の組手試合
伝統派空手の組手試合は、いわゆる「寸止めルール」で行われるのが一般的です。フルコンタクト空手やボクシングなどとは違い、相手をKOする競技ではありません。
突きや蹴りが相手に当たるギリギリで攻撃を止め(軽く当たる場合もある)、技が決まるとポイントが加算されます。「そのまま止めずに撃ち抜いていたら相手が倒れていた」ということでポイントが与えられるという理屈です。そのため、遠すぎたり、寸止めの時点ですでに伸びきっていたりといった、当たったとしてもダメージが入らないであろう攻撃はポイントの対象になりません。なお、当ててはいけないのは顔面に対してであって、胴体への攻撃は打ち込んでもOKです。
ポイントがどちらかに入る度に試合が止められて仕切り直します。ポイントを積み重ねていき、既定のポイント(基本は8ポイント)に達したら勝ちという流れです。
中途半端な攻撃ではポイントにならず、反対に相手に隙を見せることになりますので、いかに正確な一撃をいれるかが大事になります。そのためフルコンタクト空手に比べて間合いの駆け引きが多く、スピード感のある試合になることが多いです。
なお、試合ルールでは上記の通りですが、道場での稽古はこの限りではありません。試合ルール通りの組手稽古をする道場、稽古ではある程度顔面に当たったとしても当たった方が悪いとする道場など様々です。
伝統派空手の型
伝統派空手では組手よりも型が重視されます。型の動作を約束組手という形で分解して理解・実践し、反復練習で身体で覚えて実戦に活かすという流れとなっており、型は空手の基盤となっているとも言えます。
流派によって型の数や種類に違いがあり、同じ名前の型でも若干の違いがあります。
伝統派空手の稽古
伝統派空手と一口に言っても4大流派を筆頭に様々な流派があり、その稽古にも特色があります。
日本の空手発祥の地である沖縄に在する琉球大学の著書でも、
現代の空手界は、そうした「伝統空手派」と「スポーツ空手派」に二極化しているといってもいいだろう。
「近代沖縄空手の現状と課題」: 空手家たちの目指す空手の精神性ー琉球大学より引用
とされているように、近年では同じ流派であっても、武道・武術としての空手に重きを置く道場や、競技としての空手に重きをおいている道場で2分化しつつあります。
どちらの場合であっても基本稽古に長い時間を使うのが一般的だが、試合で勝つためのテクニックを重視している道場もあれば、型を重視している道場、試合ルールとは違い武道としての組手に近い組手稽古をしているところなど様々です。
筆者の体験談
筆者が通っていた道場では、90分の稽古時間の内、最初の30分で体力トレーニング、次の30分で基本稽古、そして最後の30分で組手又は型(順番に日替わり)という流れで稽古が行われていました。
組手稽古においては小学生・中学生はあまりにもレベル差がある相手でない限り、道場での稽古では拳サポーター以外の防具を付けず、顔面も攻撃対象で、さばききれなかったほうが悪いという方針でした。
また、体力面・精神面も非常に重視されていました。合宿では特に顕著で、合宿の半分以上はランニング・筋トレで体力面・精神面を鍛錬していました。
しかし、このような道場ばかりではなく様々な方針の道場があるため、流派だけでなく道場の方針も確認しておく必要があります。
フルコンタクト空手とは?
「極真空手」という言葉がフルコンタクト空手の総称として用いられることもありますが、極真会館はフルコンタクト空手の会派の1つです。芦原会館、正道会館などいくつかの会派に分かれています。
フルコンタクト空手の組手試合
顔面や急所以外での打撃を行い、3秒以上相手をダウンさせたら1本勝ちという見ている側も分かりやすいルールです。伝統派空手の組手試合に比べ、近い間合いで展開され、コンビネーションも多彩です。
また伝統派空手では脚への攻撃は足払いしかないが、フルコンタクト空手ではローキックも行われることも特徴として挙げられます。
なお、広義のフルコンタクト空手では、防具を着用する会派や顔面への突きが認められている会派もあります。
フルコンタクト空手の型
極真会館は日本のフルコンタクト空手の大元と言っても良い会派です。
その極真会館の開祖である大山倍達氏は、会派を興す前に松濤館流・剛柔流で空手の修練をつんでいます。そのような経緯から、フルコンタクト空手の型は松濤館流・剛柔流の型が元となっています。
重厚な型が多いのが特徴で、伝統派空手に見られるようなスピード感に溢れた型はあまりありません。
フルコンタクト空手の稽古
伝統派空手では、基本と型を重視している道場が多いのに対して、フルコンタクト空手の道場では基本と組手を重視していることが一般的です。
組手ばかりをしているという印象を持たれていることが多いですが、前述したようにフルコンタクト空手においても型も存在します。
伝統派空手はどんな人におすすめ?
このような方はフルコンタクト空手ではなく伝統派空手を選択したほうがいいという例を挙げてみました。
参考にしてみてください。
型を重視した稽古をしたい方
型を一生懸命稽古したいという方は伝統派がおすすめです。
極真会館をはじめとするフルコンタクト空手にも型はありますが、伝統派空手ほど重視されていません。
伝統技術としての空手に興味がある方
試合自体にはあまり興味がなく、武道・武術としての空手に興味を抱いて空手を習いたい場合は伝統派の方がおすすめです。
伝統派空手の道場の中でも、競技志向ではない道場を選ぶと、あなたにあった道場・師範と出会える可能性が高まります。
痛いのが嫌な方
フルコンタクト空手の組手試合は相手をダウンさせることが目的の為、必然的に痛みを伴います。「痛いのはちょっと」という方は伝統派空手の方がよいでしょう。
ただし、伝統派空手でも、相手に打撃を全く当てないかというとそうではなく、腹部へは突き・蹴りを当てます。とはいえ、相手をダウンさせる程には攻撃しない為フルコンタクト空手と比べると、痛くないと言えます。
なお、稽古においては試合ルールの組手とは違う組手を行う道場もある為事前に調べておく必要があります。
フルコンタクト空手はどんな人におすすめ?
次のような方は伝統派空手よりフルコンタクト空手の方がおすすめできます。
実際に技を当て合う試合をやりたい
フルコンタクト空手の試合は、実際に技を当て合い相手をダウンさせた方が勝ちという分かりやすい勝敗の決め方です。なので、実際に技を当て合ってどちらが強いのか決めるような試合をしたいといった場合はフルコンタクト空手がおすすめです。
また、そういうルールにあって尚且つ、頭部への打撃には制限があるためボクシングなどで見られるような頭部へのダメージによる後遺症への心配は少ないのも特徴です。
自分にあった道場を選ぶことが重要
道場を選ぶ上で最初に注目したいポイントが伝統派なのかフルコンタクトなのかというところです。ただし、伝統派空手という枠組みの中にも、流派による違いがあります。さらに同じ流派であっても道場によって特色があるものです。
お住まいの地域によっては選択肢が十分にないこともあるが、入門する前に複数の道場をみてみるのをおススメします。